中学に入ってから、彼は美術部に、佐藤義久はバスケ部に席を置いたが、彼等の友情は、気付けば動かざる事、山のように、ただそこにあった。
 佐藤は、彼が小四の時に引っ越してきてからずっと同じクラスであったし、何より此処で初めて出来た友達であって、最早、遠慮も何もないのである。
 バスケ部の練習は大変らしく、何時でも佐藤は彼に愚痴をこぼしていたが、彼はその度に、「じゃあサボってゲームでもしようぜ」などと言っては、二人して部活をサボり、当時流行っていたロールプレイングゲームに夢中になっていた。
 梅雨が俄かに寄ってきていた、六月の或る日。その日も、家でゲームをする事になったので、彼等は先輩の目を盗み、自転車で逃げ帰る。何時もの事。
 中学校は、通っていた小学校より、実に三倍の距離がある為、彼等は自転車での通学を許されていたが、「憲広、もうヘルメット取っても良いかな」、「馬鹿。まだ駄目だ」、と専ら彼等の不満は、被っているヘルメットの不格好なその姿である。
 逆に考えれば、不満などそれくらいのもので、所謂田舎の子供の有り様であった。 路地に入ってヘルメットを取り、短い髪を靡かせながら、彼等はお互いの住むマンションに向かう。
「今日は佐藤の家な。牛乳あるか?」
「うん。多分あるよ。母さんが昨日買ってきた」
 たわいのない会話を取り交わしつつ、彼等はマンションに隣接した自転車置き場に自転車をしまう。そして、入り口手前の階段を早足で駆け上がる。が、
「ねえ。これ見てよ。誰か引っ越してくるのかな?」
 佐藤の言葉である。彼も、右手にある引っ越しセンターのトラックを一瞥し、「そうだな。多分、これは来る方だ。見ろよ。あれは自転車だ。年が近い子が来たら良いよな。野球も、流石に四人じゃつまらないからな」と早口で告げる。訛りなど、雲散霧消している。