佐藤もすぐさま立ち上がり、彼の後を追う。そして「煙草って美味しいの?」と、彼に問うた。
「吸ってみるか?」
 彼は、加えていた煙草を佐藤に渡す。
「うん! ……げほっげほっ!」
「はは。それたかが三ミリだぞ。ほら、お子ちゃまは戻れ。ほら、お前の」
 彼は、佐藤の持っていた煙草と、自らが取り出したビールを交換すると、佐藤を蹴って、煽る。
「いたっ! 酷いな。……いや、凄いよね、一人暮らし。僕もやってみたいなあ。けど、二ヶ月で引き払っちゃうんでしょ?」
 佐藤の、いかにも寂しそうな表情に、彼は、……今だ! と思った。だが、「ああ。そうだな」とだけ返す。
 ……まだ、チャンスはいくらでもある、彼はそう自分を鼓舞すると、「ほら。行け」と彼の肩を押す。
 彼には、佐藤に言わなければ行けない事があった。
 その為に、この酒宴を開いたのだ。だが、彼には未だ言えていない。
 ……もうちっと酔えば。彼は、酒のペースを上げる事に決めた。



 気が付けば、泥酔の一歩手前であった。それから、彼等は最後の一本をこれまたペロリと飲み干し、焼酎を飲み始めた。
 二リットルの、ペットボトルに入ったジンロ。
 彼等は、烏龍茶で割って、それを喉に流し込んだ。彼の家には、その外に、日本酒、ウイスキー、ジンと、多種多様の酒が揃っていた。最近買ってきたその酒類は、須く開封済であり、一様に、口を付けた痕跡がある。
 それを、彼と佐藤の間に置いて、「これは不味い」「これは酷い」と、全ての酒に批評を入れ、佐藤は、笊のように焼酎を飲んでは、「どんな味なんだろう? 次はこれ飲もっか?」などと言っている。
 彼は、その実、吐き気を催していた。
「ちょっと待ってろ。腹が痛い」
 耐えきれなくなった彼は、そう嘘を吐き、トイレに向かう。
「うん。早く帰ってきて! いっぱい飲むぞー!」 
「一杯でいいのか?」
 佐藤の言葉に、苦し紛れの諧謔で返して。



 彼は、それこそ滝のように吐いた。便器の端に両手を当て、ビールも焼酎もイカもポテチも、洗いざらい嘔吐する。
 そうして、少し落ち着いた彼は、便器の隣に尻餅を付くと、……何やってんだ、と思った。