「うわあ。ビール。甘いのは無いの? あの……桃のお酒とか、苺ソーダみたいなのとか。あれならちょっと飲んだ事あるんだけど……」
「馬鹿」彼は佐藤の背中を押して、居間に座らせる。
「男なら、ビールだ。夏にはビールだろ? ……えっと、摘みはイカで良いか。これ結構旨いんだぜ? ……ああ、ポテチもあるぞ。まあ、取り敢えずこんなもんでいいだろう。よし、飲むか!」
 彼も座ると、最後の一声と共にプルタブを摘み、プシュッと云う音と共に開け、「ほら。義久も開けろよ。……大丈夫だって。誰にも言わねえよ」と、未だに後込みしている様子の佐藤に言った。
「……うん! 分かった!」
 佐藤も漸く笑顔になると、意を決したのか、勢い良くプルタブを引っ張る。
 勢いが良すぎたのだ。泡が跳ね、佐藤の頬を湿らす。ポカーンとする佐藤。
「……くっ! 馬鹿だなお前は。まあ取り敢えず、乾杯だ。かんぱーい!」
「あっ、かんぱーい!」
 彼等は互いの缶ビールを合わせ、そして、それを喉に流し込んでいった。



「ほんっとあの時のお前の顔ったら! ギャッ八ッハ!」
「何だよ! あの時は、憲広だって酷かったよ? 顔は、何とも無いような顔しちゃってさ。下半身ずぶ濡れなんだもん。そして、『今日は帰っか』、酷くない?」
「いや、あればあれで正解だよ。第一、お前が川に行きたいなんて言うからあんな羽目になったんだ。責任取れよ」
「いーやーだー! アッハッハ!」
 飲んでから一時間後、彼等は昔話に華を咲かせていた。
「あーあ。あれ、もう無くなっちゃった。憲広。まだビールある?」 
「えっ! もうお前飲んだの? 後二本入ってるよ。……おい、ちょっと待て。ああ、待てよ……」
 彼はそう言うと、すぐさま、自分のビールを空にする。
「……ゲフッ。……何だかお前ペース早くねえ? 誰だよ。初めにあんなにびびってたのは?」
「だって、何だか楽しくて! お酒って良いね。何でこんなに楽しいのかな?」
 彼は、半ば呆れながら立ち上がると、煙草に火を点け、キッチンにビールを取りに行く。