「それは、そうだよ。何て言ったって、ボイターズ仲間だからね。しかも、先生でもあるし。あっ、サダ? あのさ、山岸さんが用事に付き合って欲しいんだって。僕は無理だから、サダ? 付き合ってあげなよ。どうしても用事があるみたいだったよ?」
「馬鹿! 本当にお前は馬鹿だな……。行ける訳ねえじゃん」
 田中は言った。彼等は、ドリンクバーの横で客に正面を向いて並び、口だけを動かして会話をしている。
「え? 何で行けないの? 何で馬鹿なの? 僕は自慢じゃないけど頭良いよ?」
「馬鹿! そういう意味じゃねえ。けれど、その理由も言えねえ。男には、意地ってもんがあるからな。お前には無さそうだけど。ああ、もう良いから、トイレットペーパーの補充でもしとけ。お前と話してると具合悪くなってくる」
「えー何でー?」彼は言った。
「まあいっか。では、田中君、ここは頼んだよ。我が輩はバックヤードに向かうのだから」
「はよ行け。シッシッ」
 田中の手振りを見て笑いながら、彼は事務所に歩いていった。トイレットペーパーは、事務所に置いてある。彼は、訳の解らぬ鼻歌混じりに、事務所の扉を開ける。そして、トイレットペーパーを三つ程、掴んだ刹那――
「れかー」
 叫び声。彼が、この毎日聞いている声を聞き逃す筈は無かった。
 彼は、すぐさま従業員用の出入り口を開け、周りを見渡す。
 そして、奥まった駐車場の隅、そこに現実を確認した彼は、走る。風を切る程の早さ。
「何してんだー!」
 彼は、叫んだ。それは最早、怒号。
 彼が走りながら睨みつけていた場所には、男が二名、女の子を車に引きずり込もうとしている場面が写っていた。
「なーんだ。見つかっちったじゃん、全く。叫ぶんじゃねえよ」
 金髪の若い男は、泣き喚くそれの腹に、一発蹴りを入れる。
 それを走りながら見た彼。自らの胸に眠っていた激情が、今正に生まれんとする所を見た。
 彼は、走ったその勢いで、金髪の男、その顔面にフルスイングで一撃を入れる。
 そうして、豪快に倒れ込んだそれから守るように、両手を広げ、女の子の前に立ちふさがった。
「なんだてめえ!」
 帽子を被った男が、すぐさま応戦し、彼の脳天に鈍い痛みが走る。
 だが彼は、今殴られた箇所を片手で押さえながらも、残った手を更に広げた。