何時も何時も、菓子やらジュースやら、時には時期外れのマフラーまでくれるのだ。
「でさ、あのさ、あのさ、義久君? 明日ヒマ? あのさ、実は、付き合って貰いたい所があるんだけど、良いかな? ほんっと、お願い!」
 彼は、それについて少し考えたが、「ごめん! 明日は、舞花と予定があるんだ。明日はサダもシフト入ってなかったけど、訊いてみる?」と、屈託の無い笑顔で答えた。
「……え? 舞花って、立野?」
「うん。そう、って、やばいやばい。早く着替えないと。サダに言っておいてあげるね!」
 サダとは、同年代の、男性従業員である。
「あ、ちょっと……」
 山岸の言葉も聞こえない程、彼は焦っていた。後、三分で着替えて、タイムカードを押さなければ遅刻なのだ。
「あれ? ていうか、山岸さん、今日シフト入ってなかったよね? ああ、ご飯食べに来てくれたんだね! 毎度、有り難う!」
 彼は着がえ終わると、そう言い残し、タイムカードを押してフロアに出ていった。
 フロアでは、客が二時にも拘わらず、ほぼ満席のようである。 
 彼は、……今日も混んでるなあ、と感嘆の息を漏らしたが、客の食べ終わった食器を持って、歩いてきた舞花に「おはようございます!」と言い、すぐさま業務に取り掛かる。
「佐藤君。注文いい?」
 この頃、しょっちゅう来店して頂いているマダムに声を掛けられ、彼は笑顔でそのテーブルに向かう。
 ……この頃、女性の客が多いな。彼は思った。
 入社した時には、それほどでも無かったのだが、この頃、男女の比率が狂っている気がする。
 ……まあ、夏休みだからかな? 彼は納得し、すぐさま声を掛けられた別のマダムに「ちょっとお待ちくださーい!」と元気な声で返し、正に獅子奮迅の働き、あまり広くもない店内を、縦横無尽に走り回るのであった。



「お疲れ様ー!」
 舞花の声。
 慌ただしく時間は流れ、気が付けば三時を少し回っている。
「舞花! お疲れー! また明日ね!」
 彼は、手を振り、事務所に下がる舞花を見送る。
「仲良いねー」
 彼の隣で冷やかすように言うのは、田中定之。彼がサダと呼んでいる人物である。