「いや、ぜんっぜんなってない。この前の方が良かった。第一、初めの『風が吹き荒ぶと同時に思い出されるのはあの日のこと』って何? これだったら、風が吹く度に思い出す。あの日の事を、でいいじゃない。第一、これおかしいよね? 風が吹く度にこんな長い事を思い出すの? じゃあ、強風の日は外に出れないじゃない。ずぅーっと、思い出してばっかりなんだもん。それに……」
「舞花、舞花。言い過ぎだ。義久が死んだ」
 彼は舞花を制しながら、栄枯盛衰を地で行く、見る影も無くなった佐藤に寄り添うと、「いいもん。どうせ文才も絵も描けないもん」と呟く、その哀れな青年を慰める。
「大丈夫だよ義久。お前才能あっから」
「ホント?」
「ああ、間違いないね。っていうか、遣れば遣る程良くなんだから。な、舞花」
 彼は、舞花に左目でウインクを投げかけた。
「……ああ、うん。そうよ、義久。今までは駄目な所だったけれど、良い所も増えていってるんだから! 例えば……」
 佐藤は、瞬間で機嫌を直し、舞花の批評にうんうんと首を振って聞いている。
 それを横目で見ながら、……やれやれ、彼は思った。
 彼は、自分以外の人間が佐藤を落ち込ませる事を嫌う。
「……どう? 分かった?」
「うん。完璧! これで、僕の小説家への道も、大きく前進したわけであった」
 佐藤は、臆面もなく、声を張り上げる。どうやら、小説家になりたいらしい。
「ああ。なれるよ義久なら。……多分売れないけどな」
 彼は、また佐藤をからかう。
「もう! 画家より小説家の方が偉いんだぞ。画家より小説家の方が自殺する人多いんだ!」
「その口振りは、死んだら偉いって事か?」
「いや。分かんない。けど、なんか格好いい」
 舞花は、半ば呆れたように彼等を見ていたが、「何だか芸術家の集まるサロンみたいね。約一名は卵にもなってないけど」と呟く。
「舞花。それって僕のこと? って、ああ、忘れてた。僕この後用事があるんだった!」
 佐藤は、唐突に叫んだかと思うと、梢が持ってきてくれたコーラを無理矢理一気に飲み干し、ポテトチップを一掴み持って、「じゃあ行くね。まだ遊んでるの?」と、彼と舞花に問う。