そして、難から逃れると、「もっちろん!」という掛け声と共に自分のバッグを漁り、数枚の原稿用紙を取り出した。
「おっ! 今日はやってきてるんだあ」
「くっくっく。舞花。読んで驚くなよ。今回の作品は、まさに、渾身の出来具合。正しく傑作だぁ!」 
 佐藤は、舞花に原稿用紙を渡すと、胸に手を当てた。どうやら喜悦に浸っているようである。
「きっと駄目ね。既にその言葉からして、重複してるもん」
 舞花は、ちらっと読んで、早速顔をしかめたが、諦めたのか、すいすいと文字の海を泳いでいく。
 彼と佐藤が腰を下ろすと、丁度、梢がお盆に菓子類とジュースを載せて、例の部屋とキッチンを繋ぐ扉から部屋に入ってきた。
「……? あら、またやってるのね。ジュースとお菓子置いていきますよ?」
「あ、おばさん! 今度のは傑作だよ! 後で読ませて上げるからね!」
「あら、ありがとう。義久君の作品、おばさん好きよ? ふふ。要司さんみたい」
「ママ! 余計な事言わないの!」
 舞花が、原稿を読むのを止めて梢を睨み付けた為、「おーこわい。憲広君、駄目よ。こんな女の子と付き合っちゃ」と言い、梢は部屋から退散した。
「全く、ママったら。あ、義久。読み終わったよ」
「おっ。では、注目の結果発表です。憲広、今回は何点だと思う? 僕は……、うーん、四十点は固いと思うんだけど」
「……そうだな。二十点。いや、十五点!」
「二十点じゃ、この前より下がってるじゃん! せめて、三十点って言って! お願い!」
「……俺にお願いしてどうするんだ?」
 舞花は暫くそんな彼等のやり取りを見ていたが、「えー、コホンッ」と割り込むと「では、発表します!」と声を張り、これまた、余り大きいとは云えない胸を張った。
 佐藤は、舞花を見やる。彼は、さっきからちらちら見えるスカートの中身がが気になっていたが、舞花がこちらを見つめて笑ったので、……ばれたか? 諦めて舞花を見遣った。スパッツを履いているのか、黒一色にしか見えない。
「……じゃあ言うよー! 点数は、……二十五点!」
「がっくし!」
 佐藤は、謎の言葉を発し、直ぐさまうなだれた。舞花は続ける。