「あらあ。いらっしゃい」
 出迎えたのは、舞花の母の、梢(こずえ)である。
 梢は、少し気の弱そうな所があるが、彼と佐藤が訪ねてくると、何時も、お菓子やジュース等で饗応してくれるので、彼等は、一番舞花の家を気に入っていた。
「こんにちはー!」
「こんちはー!」
「はい、こんにちは。そう言えば舞花。お父さんから手紙来てるわよ?」
「あっ嘘! やったあ」
 舞花は、飛び跳ねて、何時ものように喜ぶ。
 舞花の父は、東京で単身赴任をしており、月一には、こうして手紙が来る。職業は、高校の教師をしているとの事だった。
「よかったねー、舞花」
 佐藤の言葉に、舞花は頷くと、一目散に奥の自分の部屋に走っていく。
「まあいやねえ」梢は言った。
「今日はジュースは何がいい? コーラとオレンジジュースがあるけれど」
「コーラ!」
「馬鹿、義久! あ、すいません。俺もコーラで」
「ふふふ。まあどうぞ。すぐ持ってきますから」
 彼等が御礼を言い、右奥の部屋に行くと――皆、場所は違えど、玄関から入って、右奥の部屋を自分の部屋としていた――甘い匂いが出迎える。
 ベランダ沿いに、ベッド。可愛らしいピンクの掛け布団が丁寧に畳んであって、舞花はその隅にちょこんと座っている。そして、その右手には、箪笥が三つ。中央の箪笥だけが膝程の高さで、そこにテレビが所狭しと挟み込まれている。テレビの上、そして箪笥の上には、最近UFOキャッチャーで取った縫いぐるみから、矢鱈に年季の入った縫いぐるみまで、兎に角恐ろしい数の瞳が、彼等の方へ投げ掛けられていた。
 しかし、この部屋に於いて、何より圧巻なのは、ベッドの左手から、扉スレスレまで並べられた本棚、そこに並ぶ本の数である。
 数百冊に及ぶその書籍は、勿論漫画では無かった。全て、小説なのだ。
 左の隅から、あ行、か行、さ行と几帳面に並べられている。まるで、凹を逆にしたような外観。中央には、ぽつんとテーブルがある。
「相変わらずすげえな」
「そう? 僕慣れた。憲広も小説読んだら暴力癖も、なお……いた、いたい!」
「悪かったな。俺は絵で手一杯なんだよ」
「そうだよ! 義久! 憲広は絵が凄いんだからいいの! それより、ちゃんと書いてきたの?」
 彼に首を締められている佐藤は、微かに首を上下させると、彼の腕を、三回叩く。