彼は、自分もレインコートを着込みながら、「じゃあまた、明日。七時半ね。バイバイ」と言い、村田の「バイバイ」に笑顔で返すと、たった今出て行った舞花の後を追った。
自転車乗り場まで舞花を尾行し、舞花が自転車に乗って走り去ったのを確認すると、彼も自転車に跨り軽快に飛ばす。雨は、朝より強さを増している。
ボイタマンションには、自転車であれば十分もあれば行くので、忽ちに彼と舞花はマンションの自転車置き場に着く。
……よし。彼は思った。想像と全く同じシチュエーション。
「あのー、立野さん?」
彼は、自転車置き場のトタン屋根を出ると、マンションの入り口へ向かう舞花に声を掛けた。
「……はい? あっ!」
「そう、同じクラスの佐藤! 同じマンションなんだね。いや、奇遇だなあ」
彼は、頭の中で何遍もシミュレートしていた言葉を舞花に投げ掛ける。
「うん。そうだね」
舞花がクスッと笑ったので、彼は今こそ好機と感じ、「凄いよね。それでさあ、良ければ友達になってくれないかな!」あくまで直進一辺倒の、素直な発言を舞花に投げ掛けた。
舞花は、またもやクスッと笑い、「……うん。ていうか、中に入ってお話しない? 雨降ってるし」と、優しい声色で返した。彼等は雨の中、向かい合って話していたのだ。
彼は「うん!」と甚だ上機嫌で返し、舞花の裏手にあるマンションの入り口に、無造作に歩き出した。
だが、「あっ」彼のスニーカーが、突如として滑る。
彼は慌てて手を振り、あるものを掴んで、そのまま背中から地面に倒れ込んだ。
「きゃっ!」
あろう事か、眼前にいた舞花のレインコートを掴んで。
彼が、「いたた」という声と共に、目を開けるのと、舞花が目を開くのは、ほぼ同時の事であった。
舞花が、彼を押し倒しているような格好である。
そうして、「ご、ごめ……」と、謝ろうとした刹那、彼は気付いた。気付いてしまった。
舞花の右目の外側に、小さな、しかし確かな傷がある事を。
彼が、じっとそれを見つめていると、舞花はその視線に気付いたのか、はっとなり、すぐさま立ち上がる。
最早、舞花も彼もびしょ濡れ。
「いや、ほんっとごめん!」
彼も立ち上がり、すぐさま謝ったのだが、舞花は「……見た?」とだけ言い、どうやらわなわな震えているようである。
自転車乗り場まで舞花を尾行し、舞花が自転車に乗って走り去ったのを確認すると、彼も自転車に跨り軽快に飛ばす。雨は、朝より強さを増している。
ボイタマンションには、自転車であれば十分もあれば行くので、忽ちに彼と舞花はマンションの自転車置き場に着く。
……よし。彼は思った。想像と全く同じシチュエーション。
「あのー、立野さん?」
彼は、自転車置き場のトタン屋根を出ると、マンションの入り口へ向かう舞花に声を掛けた。
「……はい? あっ!」
「そう、同じクラスの佐藤! 同じマンションなんだね。いや、奇遇だなあ」
彼は、頭の中で何遍もシミュレートしていた言葉を舞花に投げ掛ける。
「うん。そうだね」
舞花がクスッと笑ったので、彼は今こそ好機と感じ、「凄いよね。それでさあ、良ければ友達になってくれないかな!」あくまで直進一辺倒の、素直な発言を舞花に投げ掛けた。
舞花は、またもやクスッと笑い、「……うん。ていうか、中に入ってお話しない? 雨降ってるし」と、優しい声色で返した。彼等は雨の中、向かい合って話していたのだ。
彼は「うん!」と甚だ上機嫌で返し、舞花の裏手にあるマンションの入り口に、無造作に歩き出した。
だが、「あっ」彼のスニーカーが、突如として滑る。
彼は慌てて手を振り、あるものを掴んで、そのまま背中から地面に倒れ込んだ。
「きゃっ!」
あろう事か、眼前にいた舞花のレインコートを掴んで。
彼が、「いたた」という声と共に、目を開けるのと、舞花が目を開くのは、ほぼ同時の事であった。
舞花が、彼を押し倒しているような格好である。
そうして、「ご、ごめ……」と、謝ろうとした刹那、彼は気付いた。気付いてしまった。
舞花の右目の外側に、小さな、しかし確かな傷がある事を。
彼が、じっとそれを見つめていると、舞花はその視線に気付いたのか、はっとなり、すぐさま立ち上がる。
最早、舞花も彼もびしょ濡れ。
「いや、ほんっとごめん!」
彼も立ち上がり、すぐさま謝ったのだが、舞花は「……見た?」とだけ言い、どうやらわなわな震えているようである。