「そうだな……。まあ、やらないんじゃないか? 冷静に考えて」
「そうかなあ。五人になれば、あと四人なのに」
「あのな、そんな事言ってんなら野球部に入ればよかったじゃねえか」
「それは、違う気がするんだよ! ボイタで集めるからいいんじゃん」
「聞き飽きた。て「敵チームはどうするんだ! でしょ? 聞き飽きた」
「なら、言うなよ。このっこのっ」
 村田は、彼の首を掴み、髪の毛をぐしゃぐしゃにする。
「ああ、何するんだよお! 母さんに櫛をいれて貰ったのに」
「何だと生意気な。このやろっ、あ、やべっ! 鐘がなっちった。急ぐぞ義久!」
「ああ、うん! けど、僕は必ず舞花ちゃんを仲間に引き入れるよ。ボイターズは永久に不滅なんだ!」
「馬鹿! 早く走れ!」
 そうして、彼等は流れるような走りで教室前まで行き、歩いていた先生に滅法怒られるのであった。



 彼は、悶々としていた。怒られた所為ではない。休み時間の度に何とか舞花に接触を試みようとするのだが、難攻不落、女生徒のバリケードは一向に解けないのである。
 そこで、彼は考えた。まず、帰り道に、村田と共に偶然を装い近付いて、声を掛ける。そして、「ああ、此処に住んでるんだ。僕らもおんなじ。良かったら、これから一緒に遊ぼう」とでも言えば、もしかして、完璧ではないだろうか、と。
 ……そうだ。僕の辞書に、不可能の二文字はない。彼は妄想をしつつ、帰りのホームルームまで耐え忍んだ。



「では、また明日」
 担任の言葉と共に、俄かに教室が騒がしくなる。
 すぐさま彼は学生鞄を肩に掛けると、一直線に村田の元に向かった。
 村田は、今日は部活に行くと言っていたのだが、最後の懇願の為である。計画は、自転車に乗りながら話すつもりであった。
 しかし、「わりい。今日は無理だ」つれない一言である。
 彼は、計画の一部が完全に崩れ去った事に一抹の不安を覚えたが、「うん。分かった。部活頑張ってね」と、舞花の挙動を確認しながら言う。舞花は、レインコートを着ようとしている。
「ああ。頑張るよ。ていうか、お前は今日もサボるんだ」
「うん。僕は、ちょっとね」