その日は、雨が深々と降っていた。どうやら、梅雨に入ったのか。
彼は、何時ものように村田と共に登校し、朝のホームルームを、席について待っている。
「おはよう!」
担任が、声を張り上げて教室に入ってきた。この担任は今年入ってきたばかりの、うら若き男性教員である。たまに、ネクタイが曲がっているので、女生徒からよく、「奥さんもらいなよ」などというませた発言を頂戴しては、しょっちゅう忸怩の念を漏らしている。
「はーい。静かに。こらっ! 橋本静かにしろ!」
「すみませーん!」
「謝り方もでかい! 後で職員室に来なさい! とまあ、冗談は於いといて、みんな、おはよう! では早速出席……の前に、そうだそうだ。今日は皆さんに、新しく入ってきたお友達を紹介しようと思う。立野さん! 入ってきなさい!」
担任のハキハキとした声を耳に入れながらも、……転校生? 彼は、扉に注目した。
そうして、扉からゆっくりと入ってくる、小柄な女生徒を目で追う。
「東京から来た、立野舞花さんだ。みんな、仲良くするんだぞ。じゃあ、立野さん、何か一言。何でもいいぞ。趣味でも、何の食べ物が好きかでも」
舞花は、少し頬を染め、周りを見渡した。そして、「立野舞花です。えっと、趣味は読書です。好きな食べ物は……ハンバーグです。宜しくお願いします」と、担任とは対照的な、か細い声で言う。
彼は、その姿を隈無く見て、……わあ、都会っ子だあ、と思った。
瞑らな黒目がちの瞳。きゅっと閉まった唇。佇まいは、ぴんっと背筋を伸ばし、さながらブルジョアの娘と云った所。
しかし、彼が何よりも視線を向かわせた場所は、他でもない、舞花のヘアースタイルだった。
右の前髪の一部分が、左目は丸々出ているのに、右目は微かに隠れている。
左は短く、右は長い。所謂アシンメトリーのようだ。
彼は、何時ものように村田と共に登校し、朝のホームルームを、席について待っている。
「おはよう!」
担任が、声を張り上げて教室に入ってきた。この担任は今年入ってきたばかりの、うら若き男性教員である。たまに、ネクタイが曲がっているので、女生徒からよく、「奥さんもらいなよ」などというませた発言を頂戴しては、しょっちゅう忸怩の念を漏らしている。
「はーい。静かに。こらっ! 橋本静かにしろ!」
「すみませーん!」
「謝り方もでかい! 後で職員室に来なさい! とまあ、冗談は於いといて、みんな、おはよう! では早速出席……の前に、そうだそうだ。今日は皆さんに、新しく入ってきたお友達を紹介しようと思う。立野さん! 入ってきなさい!」
担任のハキハキとした声を耳に入れながらも、……転校生? 彼は、扉に注目した。
そうして、扉からゆっくりと入ってくる、小柄な女生徒を目で追う。
「東京から来た、立野舞花さんだ。みんな、仲良くするんだぞ。じゃあ、立野さん、何か一言。何でもいいぞ。趣味でも、何の食べ物が好きかでも」
舞花は、少し頬を染め、周りを見渡した。そして、「立野舞花です。えっと、趣味は読書です。好きな食べ物は……ハンバーグです。宜しくお願いします」と、担任とは対照的な、か細い声で言う。
彼は、その姿を隈無く見て、……わあ、都会っ子だあ、と思った。
瞑らな黒目がちの瞳。きゅっと閉まった唇。佇まいは、ぴんっと背筋を伸ばし、さながらブルジョアの娘と云った所。
しかし、彼が何よりも視線を向かわせた場所は、他でもない、舞花のヘアースタイルだった。
右の前髪の一部分が、左目は丸々出ているのに、右目は微かに隠れている。
左は短く、右は長い。所謂アシンメトリーのようだ。