次の日、朝目覚めてすぐに、私はケータイを開いた。
新着メールは…なし。
メールセンターに問い合わせをしたけれど、結果は同じ…。
マサキさんからメール…こないなぁ…。
…どうしよう。
ウザかったかな…。
やっぱり…10歳近く離れた女子高生なんて、眼中にないのかも…。
頭の中が不安でいっぱいになる。
不安で泣きそうな自分をごまかすように、アプリを起動してゲームをしてみた。
…集中できるわけない。
10分ごとにメールセンターに問い合わせしてしまう。
不安を抱えたまま、駅に向かった。
どういう顔してったらいいんだろ…。
マサキさんは、どういう顔をするんだろう。
気まずくて、私の方なんて見ないのかな…。
私は右手の小指を立ててみた。
マサキさん…。
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駅に着き、いつものように改札を抜ける。
電車が来る方向を眺めていると、遠くから青い電車がだんだんと近付いてきた。
私の心臓も、電車が近付く音と比例して、だんだんと高鳴っていく。
…怖い。
マサキさんの顔を見るのが、怖いよ。
本当は、最前列の一般車両とかに乗れば楽なのかもしれない。
自分からマサキさんを避ければいい。
でも…
私はマサキさんと約束した。
最後尾の女性専用車両に乗るって。
『約束』したから…。
――7時32分。
私は左手で、右手の小指をそっと撫でて、女性専用車両に乗り込んだ。
いつもの席…
ガラス越しに隣の車両が見える、いつもの席に腰掛けた。
緊張で震える手を押さえながら、
意を決して、私は隣の車両に目を向けた。
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マサキさんは…
――いなかった。
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第三章
〜夏休み〜
勇気を出してマサキさんにアドレスを手渡した日から、5日。
私のケータイに届くメールは、リカコからか、お母さんからか、好きなファッションブランドのメルマガくらい。
ケータイのメール着信音が鳴る度、
『もしかして…マサキさん!?』
って期待してたけど…
5日も経つと、『もう無理なんだなぁ…』って自覚してきた。
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昨日から学校は夏休みに入った。
電車に乗ることもない。
いつもの車両のいつもの席から、マサキさんの姿を探すこともない。
マサキさんの姿を探して、
毎日確かにそこにいたマサキさんの姿がなくて、
苦しくて
哀しくて…
…涙を流す必要も、ない。
――だってさ。
ずっと、ずーっとあの車両に乗ってたんだよ、
マサキさん。
私がマサキさんの存在に気付いたときから、毎日ずっと。
それなのにさ…
私がアドレス渡した次の日から、
急に会わなくなったんだよ…。
乗る電車を変えたのか…
乗る車両を変えたのか…
それはわからないけど…。
でも、これだけはハッキリわかるよ…
『マサキさんは、私を避けてるんだ……』
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私の目から、大粒の涙が溢れ出す。
昨日もおとといも、リカコと一緒にいっぱい泣いたのに…。
「やだ…もー…
どれだけ出れば、気が済むのよぉ…」
拭っても拭っても、涙は溢れては落ちた。
胸が、痛いよ…
苦しいよ…。
こんなに好きなのに…
こんなに、マサキさんが好きなのに……
私は、きゅぅっと痛む胸を押さえて、部屋でひとり泣き続けた。
――♪♪〜♪
だいぶ経って、ケータイが鳴った。
ベッドに伏せて泣き崩れていた私は、顔を上げて窓を見た。
…どれだけ泣いてたんだろ…。
青かった空はもう、オレンジ色に染まっていた。
私は床に転がっていたケータイを手に取った。
さっきの音は…メールだなぁ。
お母さんまた残業かな…?
慣れた手つきで、未読メールを開封する。
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time:2009/07/25 18:46
from:shu-hei_11.28@bocomo.ne.jp
sub:無題
メールは、登録していない人からだった。
アドレスをじっと見てみる。
しゅー…へい?
………誰?
私の友達や同級生には、『しゅうへい』という名前の人はいない。
多分、その後の『11.28』は誕生日かなにかなんだろうけど、11月28日生まれの人に心当たりもない。
疑いながら、本文に目を通す。
本文:
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キティちゃん好きなの?
-END-
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…初め、意味がわからなかった。
なんで…キティちゃん?
確かにキティちゃん…好きだけど。
団扇も、メモ帳もキティちゃんだし………
……団扇?
……メモ帳?
もしかして……
や、でも……
私は、興奮する気持ちを抑えて返信メールを作った。
いつもならスムーズに打てるのに、手が震えてるせいか誤字脱字が多く、時間がかかった。
to:shu-hei_11.28@bocomo.ne.jp
sub:もしかして…
添付:
本文:
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キティちゃん、好きです!
あの、もしかして…マサキさんですか?
-END-
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