「笑わない……。笑わないから、お願いシュリ、首のこれ、退けて……」


半ベソ状態で、剣を指差しながらロイは、シュリに必死の形相で懇願した。

黒い毛皮で被われているロイの必死の形相などたかが知れてはいるが、見ていてじつに面白い。

シュリはと言うと、そんなロイに脅しとばかりに無表情な顔を作って、ロイを見ている。


そして、ようやく口を開いた第一声が。


「お願いします……だ。ロイ」

「うっ……。お願いします……。シュリ」


オウム返しの様に呟くロイに、シュリは口元をわずかに吊り上げると、ロイの首にギリギリで突き立てた切っ先を退けて、剣を鞘に納めた。

ロイは、剣が無くなると安堵の息を吐いてよろよろと起き上がり、ブルッと身体を奮わせて、シュリを見上げた。

じっとシュリを見つめる瞳が、フッと和む。

何度か見た事があるシュリの魔術師の正式な衣装。

それを彷彿とさせる今回の衣装。

ここまで華美では無かったが、白を基調としているのは同じ。

それと照らし合わせると、今の衣装は決して似合っていないと言う訳ではなかった。

むしろ、似合いすぎていると、言った方がいい。

魔術師と白を基調とした彼らの正装とは。


ザイラスでは、魔術師と魔女と呼ばれる者は、王族と謁見する時、白の魔術師の制服を着用する事が、義務付けられていた。

それを考えれば、今回着るお仕着せ等、慣れた物だ。

シュリとしては、魔術師の衣装ですら苦手だったらしいのだが。


『それにしても、この国のシンボルカラーが『白』だったとはね……。出来過ぎた偶然だな』


シュリは自分の着ている服を見下ろすと溜め息を付いた。