しばらく歩くとあたしの家に着いた。
見た目は古い洋館。
中は所々リフォームされているけど。
7年前に引っ越しをすることになって、下見をしにきたときにお母さんが一目惚れしたんだ。
「じゃあー。また明日」
そう言っていつまでもいつまでも後ろを振り返りながら手を振っていた。
なんとなく家にも入りにくかったから角を曲がるまでずっと見送っていた。
完全に姿が見えなくなったところで家にはいる。
家は何処も真っ暗。
まぁ、当たり前か。
今の時間は12時を少し過ぎたところだし。
もう日付変わっちゃってるよ。
まぁ、寝てたほうが都合がいいから。
あたしの部屋は2階の1番奥。
一人っ子だし部屋は大分広い。
部屋に着くまでにあるこの家で1番広い部屋。
鍵のかかったその部屋はもう2年近く誰も入ってない。
きっとこれからも入ることはないんだと思う。
なんだかちょっと息苦しさい。
でもふぅーっと小さく息を吐いたらちょっとだけ息苦しさが良くなった。
一瞬目を閉じてすぐに歩き出す。
そうしてすぐに部屋に入って、風呂にも入らず、服もそのままで布団に入って寝た。
寝たらこの息苦しさが治ると思ったから。
朝、目を覚ましたら汗とかで体が気持ち悪かった。
せめて服だけでも着替えればよかった。
仕方ない。
時間ないけどシャワーを浴びよう。
下に行くとお父さんとお母さんがご飯を食べていた。
「おはよう。またそのまま寝たのね。早くしないと遅刻するわよ」
お母さんがお父さんにご飯茶碗を渡しながら話しかける。
あたしはただ頷いて風呂場に向かった。
頭から熱いシャワーを浴びる。
黒い感情も一緒に流れていった気がした。
これで今日も頑張れる。
今日も笑える。
風呂場から出たときにはもう8時を少し過ぎていた。
今からどんなに頑張ったって間に合わない。
諦めてゆっくりと朝食を食べる。
1時間目に間に合えばいいや。
いつの間にか父と母の姿はなかった。
多分仕事に行ったんだと思うけど。
そろそろ出ないと間に合わないかな。
時計は8時30分をさしていた。
授業が始まるのが8時50分。
ぎりぎり間に合うかな。
「きぃ、おはよー」
あたしが学校に着いたのは授業が始まる5分前だった。
「‥‥おはよ」
教室に入ってすぐに声をかけてきたのは親友の愛弓。
7年前に引っ越して来てからずっと仲良し。
きょうだからきぃらしい。
呼び方なんてなんでもいいからどうでもいいんだけど。
「今日もテンション低いなぁ」
「‥‥ねむい」
朝は弱いから。
「夜歌いに行くからだよ」
愛弓はあたしが毎晩歌っているのを知っている。
それを知ってるのは愛弓とそれからあいつ。
陸人とか言ってたな。
あいつってよくわかんない。
まぁいっか。
朝は全然頭が回らないから、諦めた。
ちょー怠い。
あまりの怠さに耐え切れず机につぷっした。
風邪でもひいたかな。
「おーい。シカトかい?」
あたしの目の前まで来て、耳元で話す。
「やめてー。頭に響くー」
あたしから出てきたのはすっごく弱々しい声。
うわー、今日は重症だ。
いつもはここまでじゃないのに。
「だから、早く寝なよ」
「うー」
もう喋ることも億劫だ。
愛弓は呆れたようにため息を吐いた。
まだ何か言いたそうだったけど、ちょうどよくチャイムが鳴ったので席に戻った。
それからの授業は机につぷっしたり、窓の外をぼーっと眺めなから過ごした。
4時間目が終わるころには怠さも治まっていた。
「きぃ、なんかいいことあった?」
中庭のベンチで弁当を食べているときだった。
今まさにミニトマトを食べようとした顔のまま愛弓を見る。
「へ?」
あぁ、今のあたし絶対間抜けな顔してる。
「別にないけど」
嘘とか話したくないとかじゃない。
本当に思い浮かばなかっただけ。
「本当にー?」
「うん?」
何だその顔。
ニヤニヤつーかニタニタ?
とにかく気持ち悪い。
そういえばあいつも昨日そんな顔してたな。
そう思ったらちょっとだけ笑えた。
愛弓を見たらなんか奇妙な物でも見たような顔をしてる。
「?」
「‥‥笑った」
小さく呟いた言葉に、眉間にしわを寄せる。
「いや、あたしだって人間なんだし笑うから」
「だって、だってきぃ滅多に笑わないから」
すっごく嬉しそうに言う愛弓。
あたしってそんなに笑ってないのかな。
イマイチ自分じゃわからない。
「まぁ、きぃは感情が全然顔を出ないからね」
「べつにそういうわけじゃないと思うけど」
あたしだって怒ったり泣いたりしてると思うんだけど。
周りから見たらそうじゃないのかな。