あたしは一体いつまで生きていかなきゃいけないんだろう。
自殺願望があるわけじゃない。
死ぬのは怖い。
でも、生きていくのも怖い。
あたしは一体どうすればいいんだろう。
今日もまた誰もいない公園で歌を歌う。
誰も聞いてくれない。
いいんだ。
好きで歌ってるだけだから。
だから、まさかあたしの歌を聞いてくれてる人がいるなんて思ってもみなかった。
「ねーねー。いつもここで歌ってるのって君?」
知らない男の子。
あたしと同じくらいの年だと思う。
明るい茶色の髪に整った顔。
身長も高いし、モテそうだなぁ。
「俺、りくとっていうの。陸に人って書いて陸人。君の名前は?」
「‥‥響」
「響ちゃんかぁ。可愛いね」
無意識に名前を言ってしまった。
何初対面の人に名前教えてんだあたし。
心の中で自分に悪態をついてみた。
まぁ、今更仕方ない。
「いつも聞いてたんだよ」
「いつも?」
私がここにいるときに人が来たことなんてないのに。
どこで聞いてたんだ?
「そー。って言っても通り過ぎるときにちょっと聞いてただけだけどね」
そういうことね。
「でもさぁ、響ちゃんの歌って綺麗だよね」
「綺麗?」
「そう綺麗」
綺麗なんて初めて言われた。
第一、あたしの歌に感想を言う人なんていなかったし。
「なんて言うのかなぁ、心が綺麗になる」
わけわかんない。
嬉しそうにニコニコしてるし。
「でも、なんか寂しそうだよね。何か辛いことでもあるの?」
今度は目尻を下げて寂しそうな顔をしてる。
あんたのほうがよっぽど寂しそうだよ。
「そんなことない」
そっけなく返した。
寂しいなんて感情、とっくの昔に捨てちゃったよ。
「そっか。ならいいんだ」
「ねぇ、明日から毎日聞きに来てもいい?」
「‥‥好きにすれば」
どうでもいいよ。
あたしはただ歌ってるだけだもん。
「よかった。駄目って言われるかと思った」
本当に安心したような顔。
表情がころころ変わる人だな。
「聞かれたくないんならこんなとこで歌ってないから」
「あぁ、それもそうか」
馬鹿な男だ。
「今日はもう歌わないの?」
何その目は。
暗に歌ってって言ってるようなもんじゃん。
まるで餌を待つ子犬みたいだ。
そういう目って好きじゃない。
純粋な汚れのない目はあたしを苦しめる。
その目にはあたしの汚れがよく映る。
だから嫌い。
「今日はもう歌わない」
だから、その目から逃げる。
あたしが映ったその目を見ないように。
「そっかぁ。じゃあ明日聞かせてね」
あからさまに落ち込んだ顔。
でも、またすぐにニコニコする。
なんでこの人はこんなにも感情を顔に出すことが出来るんだろう。
くるくると目が回るほどに表情を変える。
まるで小さな子どもみたいだ。
「帰るの?」
黙って立ち上がったあたしに声をかける。
歌わないんなら帰るだろう普通は。
ほんと馬鹿な男だ。
ただ頷く。
「じゃあ送ってく」
そう言って立ち上がる。
「そんなのいいよ」
はっきり言って迷惑なんだけど。
わかんないのかな。