『うちの親父変わっててさ〜』
笑っていた勇紀だけど、いろいろ辛い想いとかしたんだろうな。
俺にはきっと、分かることは出来ないけど。
でも、血が繋がってないなら、無理なことはないんじゃないか。
そう思った。けど…、
俺の考えはまた、少し簡単に考えすぎていたんだ。
『俺、お前みたいになりたかったなぁ…』
ある日突然勇紀が、そんなことを独り言のように呟いた。
『なんだよいきなり?』
俺はわけがわかんなかった。
『不公平だよなー…』
俺は勇紀の意図がわからず、返事を返さず黙っていた。
勇紀の寂しそうな顔。
なんでお前、そんなこと言うんだよ…。
俺はお前みたいになりたかったけど、な。
人を引き付ける力がある。
俺なんかより、ずっといい。
俺は、お前みたいになりたい。
『もっとさ、俺にもお前や凌兄みたいな大人っぽさがあったら良かったのになー…』
『…なんだよ、凌さんがどうかしたのかよ?』
前に一度だけ校門にいる凌さんを遠目で見たことがあった。
遠目なのに、そのかっこよさははっきりとわかった。
『あいつ、ぜってぇ凌兄を選ぶんだ…』
勇紀が躊躇いがちに呟いて、
瞳がせつなげに揺れていた。
『選ぶ…?』
そう言った時、勇紀が栞ちゃんの婚約者になったことを教えてくれた。
そして、あの“無理”だと言った本当の理由――…
『栞…あいつさ?自覚ねぇけど、昔っから凌兄のことが好きなんだよ、多分…』
切なそうに言葉を発し、表情も少し苦しそうで、見ているこっちまで辛くなった。
『…んで、凌兄も……』
それはきっと、ずっと側にいるからわかってしまうことなんだろうか。
無理だと言った、本当の理由が分かった。
勇紀が彼女を想うように…
彼女も違う人を想っていた。
なんて、辛いんだろう。
出来ることなら、勇紀と栞ちゃんがくっついてくれればいいのに…。
そう思ってしまう俺は、たった一人の勝手な意見だ。
『…だからあいつとは、今まで通り口喧嘩して、言い合ってられりゃ十分!』
そう言って、無理矢理笑った勇紀を俺は…ちょっとカッコイイと思った。
大切だからこそ、違う形でも傍にいたいと望むのかもしれない。
人を本気で好きになったことのない俺には、その気持ちを理解することは出来ないだろう。
だけど、
勇紀の切ない片思い…、
せめて俺だけはささやかに応援してやろうと思った――…。
別になにか手助けするわけじゃない。それを勇紀も決して望むことはないだろうから。
ただ、
誰かが応援してやんないと
こいつの想いがなんとなく
報われない気がするからさ。
俺の出会った
初めてのタイプ。
可哀相な位馬鹿で、
阿保がつく程の一途な男。
俺はこいつと、
ずっと…親友で居たい。
side梓*end
【わたしの憧れ】
by雛
しおちゃん
わたしのお姉ちゃん。
血は繋がってなくて、本当のお姉ちゃんではないけれど…
しおちゃんは
わたしの憧れ。
繋がれた手が羨ましかった。
そこから、愛情が注がれているように見えたから。
あたしの繋がれてた手は、
真っ白い建物の前で離されたから。
『雛、ここでいい子にするのよ』
迎えに来てはくれない。
わかっていたけど、
いい子にしてればいつか迎えに来てくれるんじゃないかって、
心のどこかで期待していた。
―――…街中で、両親に繋がれた子供の手が、羨ましい。
あんな幸せそうな笑顔を、
どうして出来るんだろう?
―――…その“愛情”っていう暖かさが欲しかった。
わたしは――…
必要な存在なの……?
そんな私を、
引き取ってくれた
お父さんとお母さん。
そして……
………しおちゃん。
「ひなぁひなぁ!いっしょにねよぉ?」
元々人見知りだったわたしは、狐児院に来てからは更にそれが強くなった。
だからしおちゃんの家に来てから、お父さんお母さんしおちゃんはわたしに普通に話し掛けてくれたけど、まともに喋れることは出来なかった。
声が出なかった。
怖かった。
また信じて、手を離されるのはもう嫌だから…。
臆病なわたし。
でもしおちゃんはそんなわたしに、そう聞いて来た。
初めてしおちゃん家…今の私の家に来た日の夜に。
「しおりといっしょいや?」
少し寂しそうに聞いてくるしおちゃん。
わたしは驚いた。
だけどしおちゃんの不安げな顔を見たら、
……小さく、首を振った。
そんなことない。そう伝えるように。
そしたらしおちゃんの顔はパァーと明るくなった。
「よかったあ!」
しおちゃんの笑顔には不思議な力がある。
見てる方を幸せにしてくれる力が。
「しおりいもうとできてうれしーの!」
一つの布団でも、小さな私たちには十分な大きさだった。
いつぶりだろう――…?
布団の中は心地よかった。
「ひなはかわいいから、しおりがひなのことまもるね!」
そんなことを突然言ったしおちゃんに、びっくりする。
「まもる…?」
「うん、おとーさんが『かわいいと危ないことがいっぱいだから気をつけるんだぞ!』ってよくいってるの!」
親の愛が詰まった言葉。
そんな親の愛があたしには眩しい。うらやましい。
布団を深く被った。
久しぶりに、涙が出そうになったから。
でもそんなとこ、見られたくなくて。
「だからひなはしおりがまもるからね!!」
今度は別の涙が流れて…。
何年ぶりかの一人じゃない布団。
とってもとっても温かった。