鼻を鳴らし、男は顔を背けた。



「でも、貴族にも大変なことはあるのよ。」


「例えば?」


「結婚とか。」



首を傾げて、男は先を促した。



「政略結婚は当たり前。
親の言うことは絶対。
十代での結婚はそう珍しくないわ。
まだ私も遊びたいのに、外に出してもらえないのよ。」



長いため息をつくシャナイアに、男は尋ねた。



「どうして?
今日もこんなに豪奢な邸宅で派手なドレスきて、うまそうな食べ物を食べて。
なにが不満だ?
外出禁止や結婚なんて、これに引き換えればたいした犠牲じゃないだろう。」


「外出禁止はまだいいわ。
でも、誰とも会えないのよ?
木登りとか、川遊びとか。
友達と遊べないなんて…。
それに、好きでもない人と結婚なんて。」


「意外とロマンチストなんだな。」



これは本気で言っているらしい。



「私だって女よ。
モノじゃないわ。」