三月某日、神奈川県、横須賀市。


「恭介くん、おはよー」


電車を降り、学校への道をゆっくりと歩いている氷室恭介の耳に、聞き覚えのある声が届いた。

恭介が足を止め、後ろを振り返ると、茶色い通学カバンを持った少女が目に入る。


「おう梓、おはよう」


少女――白鳥梓は、手を振りながら恭介の隣に並ぶ。

それを確認した恭介は、再び歩みを進め、彼女もそれに合わせて歩き出した。


「はぁ〜、ガッコ面倒くせーなぁ…」

「いきなりため息なんて、どうしたの?」

梓が恭介の顔を覗き込む。


「だってよ! ガッコ行くのに朝6時起きだぜ? 眠いったらありゃしねぇよ。…あ〜あ、ガッコが昼からだったらいいのによ〜。そうだったら朝寝坊できるのに」

「――残念。人間の脳は、朝食を摂り、その後3時間程経過した時が一番活動する」
「どぅわっ!?」
「わっ!」


後ろから突然割り込んできた声に、恭介と梓は思わず声をあげる。

二人同時に振り向いた先には、銀縁の眼鏡をかけた少年が立っていた。



「…なんだ、正希か…ビックリさせんなよ…」

「なんだ、とはなんだ。失礼だな。…でも、今の悲鳴、面白かったな。どぅわ、って」


そう言うと、立華正希は、口元に手を当ててくすくすと笑った。