アキは20歳の若さで、結婚という幸せを掴んだ。


結婚相手は高校の同級生。


「俺がじいちゃんになっても、一緒にいてくれないか?」


これがプロポーズの言葉。


アキは絶対にこの人だけ、健吾だけを、ずっと見つめていよう。


そう心に誓った。


幸せな新婚生活は、あっという間に過ぎていく。


結婚して4年がたち、健吾がアキにある話を持ち出した。


これが2人の結末を結ぶ道のりの始まりとなる。


「なあ、俺の親友なんだ。助けてやりたい。分かってくれ」


そう言って、健吾はアキの猛反対を押し切り、親友のもつ借金の保証人になった。


不安はあったものの、そんな友達思いで優しい健吾がアキは大好きだった。


しかし健吾の親友は、健吾の前から姿を消した。


『親友と連絡がとれないってどういう事?』


――血の気が引いていくのが自分でも分かった。


「…携帯も変わってて、繋がらない。…それにアイツ…引っ越してるみたいなんだ…」


アキの目に、ただ呆然と立ち尽くす健吾の姿が映る。


『何それ…健吾が大丈夫だって言ったんだよ!?どうすんの!?その人の代わりに健吾が、借金返さなくちゃいけないんだよッ!?』


――苛立つ心。


2人で住んでいた小さなアパートの一室で、会話するには十分すぎる声のボリュームで、アキは怒鳴った。


「…ごめん、アキ!」


今度は深々と土下座する健吾の姿が、アキの目に映る。


ひたすら謝り続ける健吾。


やたらうるさいセミの鳴き声。


せかすように時を刻む時計の針の音。


アキには何もかも全てが無性に腹立たしく思え、溢れ出す怒りを抑える事が出来なかった。


『謝ってすむ事じゃないよ!!』


『健吾なんかと結婚するんじゃなかった!』


――今でもこの後の健吾の表情は、あたしの頭の中にはっきりと残っている。


驚きと悲しみを掛け合わせたような健吾の表情。


そんな健吾の姿が、アキの目に映る最後の健吾の姿だった。