浴室から聞こえるシャワーの音が、部屋中に響き渡る。


いつもは、心苦しく聞いていたこの音も、今日は心なしか少し心地良い。


――この音を聞くのも今日で最後だ。


そしてシャワーの音が止み浴室からは、バスタオルを腰に巻いた中年男の姿。


腰に巻いたバスタオルの上に、腹の肉がだらし無く乗っかっている。


『帰るの?』


アキはベットに横になったまま、クローゼットからスーツを取り出す男の様子を眺めていた。


「ああ。もう0時回ってるだろ。帰ってうちの奴に、色々言われても面倒だからな」


『…そう』


「じゃあこれ今月分」


中年男は着替えを済ませると、セカンドバックから札束を取り出し、ベットに放り投げた。


『…ありがとう』


ベットのまわりに散乱した1万円札。


アキは急いでベットから起き上がり、裸のまま1万円札を拾いあげた。


1枚1枚丁寧に。


向こうの方で玄関の扉が、閉まる音がした。


中年男が出ていったのだろう。


――ほんとに今日で最後なんだ。


アキの視界が涙でぼやける。


『ねぇ、健吾やっと終わったよ。こんなあたしを許してね?』


天井を見上げたアキの口から出た言葉が、静かな部屋に虚しく響く。


アキは次々とあふれる涙を抑える事ができずに、ただ広いだけの部屋で1人、ただ泣き続けた。