必要な物しか置いていない、ただ広いだけのマンションの一室。


「アキは可愛いなあ」


若い女を腕の中に抱いた、中年の男が優しく微笑んだ。


――最初はこの男に名前を呼ばれただけで、鳥肌が立ってたんだっけ。


あれからもう3年だ。


あたしももう27歳。


おばさんだね。


アキの顔に、自然と笑みがこぼれる。


「じゃあ俺は、シャワー浴びてくるよ。一緒に浴びるか?」


ニタリと不適な笑みを浮かべる中年男に、アキは静かに首を横に振った。


「そうか」


いつもより低い中年男の声が、アキの耳に流れ込む。


そして男は今までアキと絡み合っていたベットに、再びギシっと音をたて、重たそうな体を起こし、裸のまま浴室へと消えていった。


必要な物しか置いていない、ただ広いだけのマンションの一室。


そのせいか、ベットに1人残されたアキは、虚しさに襲われた。


――でもそれも今日で最後。


『もう0時か…』


広い部屋に、ぽつんと置かれた時計の針が、深夜の0時をさしていた。