「マイマール卿もお出ましか、行かねばならんな。」
目の前の王子が窓に視線を戻しつつ呟いた。
「夜咲鳥だ。」
「えっ?」
「狩りの時間だ。名無しも付いてこい。別室でメイドを呼ぼう。…いや、その髪はまずいな。髪を下ろせるか?」

崩れた髪のピンやらクシやらいくつもの小さな星の髪飾りを外して、髪の乱れを落ち着かせる様に髪を撫でた。

首後ろにまだピンが刺さっていていて、外そうとしても、絡んでいて取れない。

見かねた王子が、後ろに回りピンを探るが、暗くて良く見えないらしい。
窓辺まで戻り、月明かりの下ピンを外す。

「名無しの髪は嗅いだ事の無い良い香りがするな。それに髪がキラキラしている。」
多分、シャンプーの香りとまとめ髪をした時に付けたラメワックス。
珍しげに右手のピンを見ながら呟いた声が優しくて、私は少しホッとした。

「名無しって…。」
「なんだ不満か。仕方が無いだろう、名無しなんだから。」
王子は、軽く笑ってる。

その時、馬に乗りながら窓辺の私たちを見上げている人がいたのに私は気がついていなかった。

確かに視界の片隅に赤いドレスが見えたはずなのに…。