「名前が解らない……どうして?どうしよう、どうしよう。」

怖さに胸が締め付けられる。押さえ込んでいたパニックがぶわっと
体中に広がった。ぽろぽろと涙が出る。どうして解らないの?!

王子は目を見開き、声を荒げ
「お前、名前が解らないのか?!」
頭の中で名前を探すけど記憶の中で、自分の名前の所はぽっかり空白だった。
私はカクカクと頭を縦に振った。

「歳はいくつだ?父や母の名は?」
「歳は23、母の名前は…っ、ぇ、マクラーレン。…、名字しか解らない。」
顔を思い出しても名前が解らない。

「まさか…身内の名前は誰も解らないのか?」
王子も驚きの顔を隠さずに私を凝視した。

「名字のマクラーレンしか、わかりません。」
「マクラーレン?貴族では聞いた事が無い。」

王子は、頭を先から足の先まで見て
「ダンスで倒れた時か…、投げ飛ばした時か…、後は…anonymous」
最後は嫌な視線だった。最後の単語の意味が解らない。