「解りました。それではチケットを買いましょう。」

ハイトさんは、ふむっ、と言って何か考えている。

えっ、えっえええ〜。私、今、断ったよね。
絶対、断った。
だめだ、曖昧さは伝わらないのかも!

「いえっ、そうではなくて!舞踏会には出ません。」

私は、語気強く言った。

「私がワルツの教師ではご不満ですか?」

ハイツさんは少し残念そうに言うので、私はうろたえてしまった。
茄子色の瞳に陰がさした、すごく残念そう。

やだ、そんな、私が悪いみたいな気分になっちゃうよ。

「いえ、あの、そうではなくて…」

その時、奥から係の人が声をかけてきたので、私はハイトさんにワタワタしつつ振り返った。

「いらしゃいませ、お待たせしました。」

背の高い、ソバカスがある金髪の女性だった。
青いモヘアのノースリーブセーターと白いパンツがさわやかな印象を与えてくれた。

「あら、ハイトさん!珍しい事もあるものね。こちらの女性はシャトーのお客様??」

「ええ、銀髪の騎士に会いたいというので御連れしました。」

「まぁ、王子様も光栄ね。女性から訪ねてくれるんですもの。」

「隅に置けませんね。」

「まぁ、王子は大広間に飾ってるわよ。」


係の人がコロコロと鈴の様な声で笑う。
ハイトさんと上機嫌で話すけど、私は場の空気に付いていけてない。

「あと、マスクを…」

ハイトさんは、その女性に何かを言うと、

「マスクね…OK,フィナー、こっちをお願い!!」

係の女性は、奥から人を呼んだ。

マスクなんてハイトさん、風邪引いたの?

私は、大丈夫かなぁとハイトさんの顔を見上げる。

ハイトさんは、まるでいたずらな天使の様に笑った。