ホットレモンを片手に車に向かう俺に、猫撫で声のムカつく女。

頗る機嫌の悪い俺に、ごちゃごちゃとまくし立てる。


「…聞いてる?」

「聞いてない」

「大樹は佐藤さんがそんなに好きなんだ?」

「は?」

何で、こんな時に真愛の名前が出て来るんだよ。


「バイト中だって、ずっと佐藤さんばっかり見てるよねぇ?好きな人いるって言ってたけど、佐藤さんなんでしょ?」

「…そんなんじゃねーよ」

お前になんて、死んでも言わねーよ。


「じゃあ、好きじゃないの?」

俺の前に立ちはだかる。


何なんだよ!

これ以上掻き乱すのはやめてくれよ。

ほっといてくれよっ!


「んなのどうでもいいだろ!知らねーよっ!」

「…だって?だからもう大樹に近寄らないでね?」

そう、俺の後ろに送られた木村の目線。


ゆっくり振り返ると、俺を睨み据える真愛が立っていた。


手から離れたホットレモンが注がれたカップは、雪がうっすら積もった地面に落ち、黄色い染みが広がった。


それと同時に、俺の心臓を突き刺し貫いた。

激しく痛み出す傷口に、手を当てるかのように、ジャケットの上から左の胸を強く押さえた。