「うん、旨い」
狭いテーブルには、琴実が作った手料理が並んでいる。
美味しそうに次々とおかずに手を出す和史を見て、琴実は内心ホッとした。

和史は琴実より二歳年上の25歳。大学を出て正社員として働いている。
「ことちゃんの手料理は美味いね」
「そう?良かった」
「いい奥さんになれると思うよ」
「そう、してほしいね」
和史は持っていた茶碗をテーブルに置いた。
「…そのうちね」
――そのうちか。
琴実は内心そう思った。

夕飯を食べ終わり、琴実は食器を片付けていた。
と、背後に気配を感じる。いつもの事だと期待を含めて、そのまま皿にスポンジで泡を塗りたくっていると、急に和史が抱きついてきた。
「一人にしないで」
「ちょっ…あ!」
琴実の手から皿がツルッと滑り、床に落ちてしまった。
「一人にしないでって…同じ部屋でしょ」
もう、と呟き皿を拾う。割れてはいないようだった。
「お風呂入ったら?」
「うん」

和史は穏やかで、一緒にいて落ち着くが、甘えん坊で子供のような一面があり、琴実は頼りなさも感じていた。

「結婚したいの?」
バスタブにつかりながら和史は聞いた。
琴実は長い髪をまとめ、バスタブに足を入れた。
「そりゃあね…」
肩までお湯につかった。思わずため息が漏れる。
「今すぐ?」
「今すぐじゃなくて良いけど…」
和史の腕の中に入り込んだ。
「まだ、そういう事は考えられない?」
琴実は和史の耳元で問いかけた。
「いや…」
「そういえば、さっきから反応してる」
琴実は膝でつついた。
「あは…」