一瞬しか見えなかったが、長い爪には真っ赤なマニキュアが塗られ、いくつものネイルストーンできらきらと輝いていた。

彼女は躊躇うことなく喫茶店の扉のノブを引いた。

彼女は、扉を開けると僕と幸子を見て、

「なにボーッとつったってんの。ほら、入りなさいよ」

「す、すいません」

僕は慌てて髪を結い直しながら店に入った。
後に幸子が続く。

彼女は僕たちが入ったのを見ると、つかつかと歩いて適当な席に座った。

僕たちもそれに続いて、彼女の向かいに座った。
彼女は人差し指と親指でサングラスのフレームをつまんで外した。

「初めまして、遊季七緒よ。
知ってるでしょ?」

つん、とした睫毛の長い瞳が瞬きした。

「え、ええ。ご高名は予々」

「やあね、『ご高名』なんて。あたし、そういうカタイの嫌いなの」

言うと、彼女――遊季七緒はポーチから煙草を取り出し、まっピンクにデコられたジッポライターで火をつけた。