父が満足した後、腫れ上がった顔をそのままに、僕は自室に戻る。
父親の教育は間違っている。
それだけは解っていた。虐待の連鎖を誘うような思考は僕は持ってはいない。
ただ暴力を受けた後は、死にたいという気持ちだけになる。死にたい。死にたい。涙も出せず、僕は自室で朝を迎える……。それがいつもの流れ。
……だった。
ベッドに寝転んで朝を待つ筈の僕に、ポケットに入れていた携帯電話が震えるのを感じた。
放っておいたが、何時までも収まらない。
力を感じさせない腕を動かし、僕は電話を取った。
もしもし、は言えなかった。切れた唇が痛かったから。
『……あの。覚えてますか……?』