あの女が、静かにベンチに座っていた。

この公園には、ベンチが一台しかない。仕方ない、と僕は女から離れて、女がいる端より、反対側に座った。

……すると女は、腰を浮かせ、ベンチの更に端に寄る。
その行動に、僕は少しばかり気持ちがざわついた。いい意味ではない。
こんなに離れているのに、更に離れようとするなんて、気分がいいものではなかった。

しかし、朝から気を乱すのも好まれない。僕は見ていないふりをし、鞄から文庫本を取り出した。