ぱぁん

 歩道橋の下を通る、トラックの遠吠え。そんな音に釣られて、真っ直ぐに私の下を流れる車の群れを眺めやる。
 この道は、いったいなんといったっけ。確か、何とか何号線……。

 あぁ

 それじゃ、何も解らないのと同じじゃないか。いつもながら、自分の馬鹿さ加減に嫌気が刺す。周りの人間が、××通りの××ショップの角を右に曲がって――、だとか、訳の解らない暗号で話をする度に、頭の奥ががんがんと痛みを主張する。
 学校帰りの道。私は自分の家とは反対の方向へと歩を進める。
 歩道橋を降り、人避けに前の人間の後ろをくっついて歩きながら左手側にふいに現れた小道を曲がると、大通りの人並みが嘘のように人気がなくなる。民家の塀の下に並べられた植木鉢。いつきても低く唸るような駆動音を鳴らし続けるトタン屋根の町工場。その横にある、鉄の門が備え付けられた民家の庭では、私がひそかに「なまこ」と名付けた茶色い犬が、今日もけだるそうに寝そべっていた。
 目的の建物は、それからあみだくじのようにくねくねと秩序なく走る横道を、右に左にと、気の向くままに曲がったところに建っている。ここ2~3年の間に新しくできた、丸い外観をした、高さだけはやけにあるマンション。地上二十三階建てのその建物は目印にするには打ってつけで、どんなに変な道筋を通ろうとも、決して迷うことはなかった。

 トッ

 マンションの横口から直接1Fの廊下に足を踏み入れると、すぐ隣に四台綺麗に並んだエレベーターがあった。一番早く着きそうな台に狙いを定めてスイッチを押……そうと思った瞬間、そのエレベーターは勝手に下の階へと向かって動き出す。私は慌てて二番目に早そうな台のスイッチを押す。エレベーターは、ヴゥ、と静かな駆動音を鳴らして動き出す。隣のエレベーターが三階で停止しているうちに、私の呼んだエレベーターが一階に到着した。私は胸を撫で下ろし、音もなく扉の開いた空っぽのエレベーターへと乗り込んだ。

 ウィィ
 
 二階、壁、三階、壁、白、黒、光、闇。
 目的地は二十三階。更に、その上。
 電興版の赤いランプが23の数字の下に制止する。すうっと開いた扉をするりと抜けて、廊下に出てすぐ横の通用路へと滑り込む。