警察猫マシュ「突然の訪問者」

まずダンボールで作られた車に、乗ったふりをした私服の警察官が走ります。

その車の前方ではマシュがボールで遊んでいます。

そしてマシュが突然走ってくる車の直前へボールを転がして、わき目も振らず急いで取りに行こうとするのです。

車は急停車しますが、間に合わずに軽く「コツン」とマシュに当たると、マシュは横たわります。

もちろん演技なのですが、子供たちは心配そうな表情で見ています。

そして救急車でマシュは運ばれて行きます。

そこで大林刑事が子供たちに、マシュのように道路で遊ばないことや飛び出さないことを教えます。

そして、もう一度車を走らせます。
今度はポップが登場して横断歩道の前に立ち、車が行き過ぎるのを待ってから、右を見て左を見て、もう一度右を見て、安全を確認してから道路を渡ります。

そこへ大林刑事が子供たちの前に立ち、ポップのように、ちゃんと安全を確認してから横断歩道を渡ることを教え、できるだけ信号のある所で渡るように伝えます。



大林刑事が子供たちに話をしている間、マシュは横目でポップを見ながら小さな声で

「ニャン、ニャン」(ええなぁ、いつも正義の役で)

それに答えてポップが小さな声で

「ワン、ワン」(いつも、ごめんな)
小学校での交通安全や防犯指導が終了して帰るときにも、マシュとポップは拍手と歓声に包まれます。

「またきてね~」

「バイバイ」

子供たちは声をかけて盛大に見送ってくれます。

帰りがけに大林刑事があくびちゃんに

「わしらは影が薄くてつまらんのう」

「マシュとポップが羨ましいぞな」

ぼやいていました。

マシュは(まぁそんなもんとちゃうか)と思いながら聞いていました。




そうして数ヶ月が過ぎてくる頃になると、河川敷の芝生公園へマシュやポップを見に来る人たちも減り出しました。
あくびちゃんと桜坂さんがマシュとポップが遊んでいる姿を川の土手に座って眺めながら話をしています。

「桜坂さん、やっと落ち着いてきましたねぇ」

「そうですね。最近はマシュやポップを見物に来る人も減り、少し静かになってきましたね」

「いや~、私は、こんなに人気者になるとは思ってもいなかったので驚きましたよ」

「ほんとうですね。こんなになるとは想像もしなかったです。マシュちゃんも疲れたのじゃないでしょうか?」

「さぁ・・・どうでしょうね」

「でもマシュはポップと遊ぶのが好きなので、それなりに喜んでいるのじゃないかなぁ」

「私はあくびちゃんとポップに出会えて良かったですよ」
「いえ私こそマシュちゃんのお世話になりましたし、桜坂さんやマシュちゃんと出会えたことを感謝しています」

「ポップもマシュちゃんと遊べるのが唯一の楽しみのようですし・・・」

「そういえばポップは仕事と訓練以外は外出しないのですか?」

「はい。どこへも遊びに連れて行ってやったことがありません」

「そうですか・・・私は、以前はマシュと車でいろいろな場所へ出かけていたのですが、ここへ来るようになってからは、ここへしか来なくなりました」

「いろいろな所?」

「私が買い物に行くときや遊びに行くときに、マシュと一緒に車で行っていたのです」

「でもねぇ・・・一度大変な出来事があったのです」
「大変な出来事?」

「マシュとね、私の生まれ故郷の家があった傍の谷川へね、魚釣りに行ったことがあったのです」

「その日は大漁で釣りに夢中になっている間にマシュが居なくなってしまいました。そして見失ったマシュを必死で捜したのですが見つからず・・・置き去りにして帰ってしまいました」

「幸い次の日曜日にマシュを捜しに行き、見つけることができて連れて帰れたのですが、そのときにひどく悔やみましてねぇ・・・」

「夜も眠れなかったのです」

「それからは自宅から近い、この公園にしか連れて来なくなりました」
「そんな出来事があったのですか」

「その桜坂さんの生まれ故郷の谷川って、どこなのですか?」

「奥谷村って呼ばれていたのですが、過疎の村で今はもう誰も住んでいません」

「自然が残っていて、いいところなのですが、山奥で不便ですからねぇ」

「今では残って住んでいるのは猫ちゃんたちだけで、通称で猫谷村なんて呼ばれていますよ」

「へぇ・・・」

「私は一度も行ったことがありませんが、一度行ってみたいですね」


桜坂さんはマシュとポップの遊ぶ姿を眺めながら、ちょっと考えていました。
「そうですかぁ・・・」

桜坂さんは呟くと

「そしたら一度、都合のいい日にポップを連れて遊びに行ってみませんか?」

「ほんとうですか。ポップも喜ぶと思います」

「ぜひお願いします」

「じゃあ、また都合のいい日を相談しましょう」



それからも二人は、しばらく話をして、それぞれ帰っていきました。
翌週の日曜日

桜坂さんとあくびちゃんが河川敷公園で奥谷村へ、いつ行こうかと相談をしています。

「桜坂さん、私とポップやマシュちゃんのスケジュールを見ると、来月の第一日曜日が空いているので都合がいいのですが」

「そうですか」

「じゃあ私はいつでもいいので、来月の第一日曜日に行きましょうか」

そして桜坂さん夫婦とマシュ、あくびちゃんとポップは一緒に、翌月の第一日曜日に奥谷村へ遊びに行くことに決まりました。

奥谷村は現在では誰も住んでいなくて、猫ちゃんしかいないので通称で猫谷村と呼ばれていますが、桜坂さんは久し振りで行けるので楽しみでした。

あくびちゃんも初めて行く猫谷村に、わくわくしていました。