仕事が終わり、会社を出ようとしたら翔が走ってこっちに向かって来た。
「ねぇ、本当に大丈夫?帰ったらきっとあの人いると思うよ。……余計なこと言ってごめんね…。」
「アンタが心配するようなこと何もないから。余計なことしたのは確かだけど。」
そんな言葉にシュンとした顔を見せた翔がなんだか可愛く思えた。
「まぁ、今度とことん私に付き合ってくれたら許してあげる。」
“ありがとう”と言って、笑顔になった。
翔に別れを告げて、会社を後にした。
外はいつもより暗くて、空には厚い雲がかかっていた。
雨が今にも降り出しそうで、急いで駅に向った。
帰りの電車に乗った頃には雨が降っていて、電車から降りて駅を出ようとしたときには激しい雨粒が地面を叩いていた。
駅からは歩いて最低でも10分はかかる。
傘なんて持って来てないし…。
仕方ない、走ろう。
そう思って、雨の中を駆け出した。
アパートの前に着いた頃には頭から爪先までびしょ濡れだった。
うずくまっている黒い塊が目に入った。
それは、傘もささずにびしょ濡れになった貴弘だった。