付き合い始めてから沙也加は変わった。
いや、もともとそうだったのかもしれない。
彼氏である俺でも、やり過ぎだというくらいに、沙也加の人生が“俺”一色になった。
常に俺を気にかけ、優しくて、そして温かかった。

泣き虫で思いやりのある彼女。
刺激こそないが俺にとっても沙也加の隣りが一番の居場所となっていった。

“同棲”や“結婚”そんな言葉も浮かんだときもあった。
そうならなかったのは、俺が沙也加の人生を背負って生きていく勇気がなかったからだ。
好きだという気持ちだけで動けるほど、子供にもなれず、今まで待たせたねと覚悟を決められるほど大人にもなれなかった。

きっと沙也加はそうなることを望んでいただろう。
言葉にはせずとも、それは一緒にいて感じていた。