「……ごめんな。…………俺、出直すわ。」
私に悲しく笑って見せた。
「でも…もう一回だけ………抱き締めたい。」
その言葉と同時に視界が貴弘の肩でいっぱいになった。
痛い程にきつく抱き締める腕は少し震えていて、冷たかった。
以外にも、それが心地いいだなんて思ってしまった。
それはきっとこの雨のせいだと思う。
どれくらいの時間が流れていたんだろう。
貴弘は私の髪の毛をなぞるように触れて優しく笑った。
“またな”と言って歩き出した。
その背中を消えるまでずっと見つめていた。
雨が降っていることも忘れて。