「……いつまでそうしてるつもり?用がないなら帰って。」

その黒い塊を横切って自分の部屋に足を進めた。

「俺、女と切ってきた。……もちろん、本命だった女とも………。マジでお前が好きだ。諦めらんねぇから…。だからさ………。」

思わず立ち止まってしまった。
パシャっと足音が近付いてくる。
どうしてかわからないけど、動けなかった。

「……ばっかみたい。…………なんでそんな捨て身になれんの!?私がアンタのモノになるなんて保証もないのに。」

すると、後ろから体を捕らえられて私の首もとに腕が見えた。

「……なんでだろうな…俺もわかんねーや。………俺の女になれなんて言わないから認めてよ。俺のこと……………俺がお前に惚れてるってこと。」

貴弘にこんなふうに抱き締められたのは初めてだった。
耳元で話すその声は少し震えていた。

「………やめてよ、そういうの。」

回された腕をほどこうとしても、しっかりと私の体を捕らえていてびくともしなかった。

「今日…、お前にどうしても会いたかった。よくわかんねぇけどさ、…………一緒にいてくれよ…。」

「じゃあ、私から離れて。」

貴弘は私の体から離れた。
少しだけ温かかった背中がひんやりと冷たくなった。