これからも時々会おうよ。
リョウさんのそんな言葉を無視して、ひとり先にホテルを出た。
終わったとたん、水風呂に入れられたみたいに興奮が冷めてしまうあたしは、我ながら男みたいな奴だ。
外はもうすっかり朝で、行き交う人々は、昨日なんて忘れたように、新しい一日を始めていた。
出勤途中の会社員で街はあふれ、逆の方向に歩くあたしだけが肌を露出していた。
前から足早に歩いてきたスーツ姿の男の人と、すれ違いざま肩がぶつかった。
「…痛っ……」
男の人はあたしのことなんか気にも留めず、携帯で何か仕事の話をしながら、人ごみの中に消えていった。
あたしは駅に向かう足を止め、タクシーを拾った。
家の住所を告げ、なるべく深く下を向いた。
朝の光が苦痛だった。
タクシーの中で携帯を開くと、ミカから1件だけメールが入っていた。
【どこ行ったの?】
というごく短いもので、たいして心配している様子も無い。
ミカはかなり酔っ払っていたから良しとして、鼻ピ女の方は、今頃気が気じゃないだろう。
なにしろ自分の男と初対面の女が一緒に消えたんだから。
かといって、彼女に同情する気にはなれなかった。