「ハァ……」
無意識にため息をつきながら化粧室を出る。
疲れているような飲み足りないような、どうにも満たされない気持ちを持て余して、心が寒かった。
だけど今に始まったことじゃない。
あたしの中なんか、いつもだいたいこんなもんだ。
「……!」
突然、視界に入った男物の靴に、あたしは足を止めた。
そしてその靴の上に続く体を見上げる。
「リョウさん」
あたしに名前を呼ばれ、リョウさんは濃いヒゲの下の唇を、ニヤッとゆがませた。
「何してるんですか?」
「何って。さくらちゃんのこと待ってた」
「……そうゆうの、普通は偶然装いません?」
素で突っ込むあたしにリョウさんは
「俺は普通じゃないから」
と、余裕の笑みで答える。
確かに……。
彼女がすぐそこにいるのに他の女を待ちぶせするなんて、うん、普通じゃないわ。
リョウさんは相変わらず余裕しゃくしゃくで、さりげなくあたしとの距離を詰めてくる。