駅まで早足で歩いている間も、さっきの一文が頭から離れなかった。



“透明人間になりたい”



何てことのないこの言葉に、どうしてあたしはこんなに心乱されているんだろう。



小学生が何気なく書いた、たわいない夢かもしれないのに。


いや、あの子のことだから、透明人間になって女風呂でものぞきたいなんて考えたんだ。

きっとそうだ。



「………」



ただのつまらない戯言だと言い聞かせてみても、どうしても激しい鼓動は鳴りやまなかった。






夕方の電車はほぼ満員だった。



雪崩のように押し寄せる乗客の中で、もみくちゃにされながら電車に乗り込んだ。


うんざりだと思った。



背の低いオヤジの整髪料が、あたしの鼻を刺激した。


誰かの手があたしのおしりに当たっているような気がした。



けれど、それらを避けようとは思わなかった。



誰も彼もが、疲れ切った表情をしていたから。



……この、異常な世界。


あたしはバッグを胸の前に持ち、ぎゅっと抱きしめるようにして守った。