“ぼくは、透明人間になりたい”
その、とても短い、ひっそりと書き加えられた文章を見て、あたしはまばたきすら忘れた。
……誰が書いた?
レオしかいない。
レオの棚にあった文集なんだから。
どうゆう意味?
“透明人間になりたい――。”
「……さくら、起きてたの?」
突然、背後から声をかけられ、あたしは飛び上がるようにして振り返った。
レオは毛布にくるまったまま、普段の半分くらいしか開いていない瞳でこっちを見ていた。
「う、うん、ついさっき目が覚めた」
「そう……」
小さくつぶやいて、レオの瞳はまた閉じられる。
あたしは衝動的に、卒業文集をバッグの一番下に押し込んだ。
「レオ、あたし帰るね。そのまま寝といて」
「ん……」
ほとんど聞こえていなさそうなレオに手を振って、家を出た。