2本ほど道を越えると、長屋が立ち並ぶ、どこか懐かしい光景が現れた。
学校に向かう小学生や、ゴミ出しをするおばさんの姿があちこちで見られ、味噌汁と炊き立てのご飯の香りが漂っている。
その中をレオと一緒に歩いていると、ひどく自分たちが浮いているような気がした。
レオは近所の人たちとそこそこに会釈を交わしながら、奥の方へと進んでいく。
そして表札のない玄関の前で立ち止まった。
「ここがレオのおうち?」
「うん」
何の変哲も無い長屋。
だけど、どこか違和感を感じたのは、玄関の表札だけでなく、生活のにおいさえもそこには無かったから。
レオはガラガラと大きな音のする引き戸を開けた。
「やだ、鍵開けっぱなしだったの?」
「いつものことだよ」
「無用心な奴ねえ」
家の中はあまりにも静かで、自分たちの声がやけに大きく聞こえた。