行こうか行くまいか。
インスタントコーヒーを飲みながら、しばらく考えた。
今からレオの家まで行けば、大学には確実に間に合わないだろう。
それに、今日は午後からまた客を呼ぶつもりだったけど、それも間に合わないかもしれない。
……確か、今日のお客は不動産会社社長の川原さんだ。
女の子が感じてるところを見るのが好きな、しつこい攻め方をする人。
ふと、川原さんがあたしの全身をなめる時の、まとわりつくような唾液のにおいを思い出した。
あたしの全てを味わいたいみたいに、貪欲にはい回る舌。
本当は、自己満足を味わいたいだけなのに。
本当はあたしなんか欲していないくせに。
「………」
あたしは化粧ポーチを取り出して、ファンデーションをほおに滑らせた。
レオの家に行く準備を、始めていた。
指定されたF駅で降りると、あたしは朝の街を見回した。
今までは電車で通り過ぎるだけだった、この街。
駅のすぐ前には駐輪場が広がり、早朝のためか、自転車はほとんど止まっていなかった。
駐輪場の先にはコンビニと、開店前の小さなお弁当屋さん。
時々、眠そうな顔で早朝練習に向かう部活少年とすれ違いながら、レオの説明通りに慣れない道を歩いた。