「あ、うん……。ちょっと用事があってさ」
寝起きの低い声でそう答えながら、のろのろと壁の時計を見上げる。
まだ7時前だった。
「もう帰ってきたの? 早くない?」
あたしは無意識にたずねてしまった。
『ん? 何が早いの?』
「だって……オールナイトコースとかいうやつだったんでしょ?」
『よく知ってんねえ』
ケラケラ笑いながらレオが言った。
『てかさ、ちゃんと仕事はしたんだし、一応太陽が昇るまでは一緒にいたんだからオッケーでしょ』
悪びれる様子もなく放たれた、ストレートな彼の発言。
あたしは言葉を詰まらせてしまう。
それを寝起きの渇いた喉のせいにして、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、一気に流し込んだ。
『で? 用事って何だったの?』
「あ、うん。あのさ、こないだのチケットなんだけど、あれって高かったんでしょ」
『ん?』
「その……お礼言おうと思って。あんがとね」
最後の方は、きっと早口になっていたと思う。
照れ臭さを押し殺しながら言ったあたしの言葉に、レオはなかなか返事をしてこなかった。