『はい、お電話ありがとうございます』
態度とは裏腹にやたら愛想のいい声に、少しビックリした。
あたしが以前働いていたヘルスもそうだったけど、電話に出る時、スタッフは店の名前を言わない。
万が一、お客の家族や恋人から、さぐりの電話がかかってきた時のためにだ。
「あ、あの、そちらにハヤトっていますよね」
“ハヤト”という名前に、ひどい違和感を感じながらたずねると、スタッフの男は勘違いしたらしく、
『ハヤトをご指名ですね』
と声をかぶせてきた。
「あ、いえっ、そうじゃなくて……」
『申しわけありません。あいにくハヤトは、本日すでにオールナイトコースが入っておりまして』
「………」
一瞬、意味がわからなかった。
黙りこくるあたしを無視して、男は次のレオの出勤予定について、早口でまくしたてる。
『…あ、あの、お客様?』
やっとこちらの異変に気づいたのか、うかがうような声が聞こえた。
ハッとして、あたしは電話を切り、向かいのビルにレオの姿を探した。