試合会場に着くまでの40分、レオは電車の中でもタクシーの中でも終始ご機嫌だった。
ルールすら知らないあたしのために、わざわざ格闘技の雑誌まで持参してくれて
やれこの選手は寝技が強いとか
やれこっちの選手のハイキックはやばいだとか
ほとんどあたしが聞いていなくてもひとりでしゃべり続けていた。
「あ、この人は今日の試合にも出るよ」
雑誌を指差しながら、レオが言う。
細い人差し指の先にあるのは、タトゥーだらけの体でこぶしをかまえる、男の写真。
何度かテレビでも見たことのある顔だった。
「この人、知ってる。バラエティにも、たまに出てるよね」
「おっ、知ってんじゃん」
レオが嬉しそうに目を輝かせた。
「最初はそうゆうミーハーな視点でいいんだよ。気楽に楽しもう、なっ」
レオが手のひらをあたしに向けて高く上げる。
つられてあたしも手のひらを見せると、パンッと切れのいい音でハイタッチされた。