約束の時間より5分前に駅に着く。


レオのことだからどうせ遅刻だろう、と思いながらコーヒーの自販機にコインを入れていると、



「さくら、遅いよ」



唐突に背中を叩かれ、あたしは飛び上がって百円玉を落としてしまった。



「び、びっくりしたぁ」


「なんだよ、人を変質者みたいに」


レオが唇をとがらせる。



「だって、あんた仕事の時はいつも遅刻してるじゃない」


「それとこれとは別だろ。俺は大事な用のときは、絶対10分前には着いとくタチなの」



百円玉を拾いながら目も合わさずに言ったレオの言葉に、あたしの心臓はドクン、と鳴った。



“大事な用”。



……わかってる。


この子にとって大事なのは、あたしとの約束なんかじゃなくて試合を観に行くことだって。


それでも……。




「さくら、どうした?」



不思議そうにあたしの顔をのぞき込んでくるレオ。



「ううん、なんでもない」



わざと明るく言ったあたしの台詞は、到着した急行列車の音にまぎれて消えた。