「さくら!」
突然、校舎の2階の窓から、聞き慣れた声に呼び止められた。
あたしは正門を出ようとする足を止め、振り返った。
「ミカ……」
校舎を見上げ、窓から顔を出す親友の名前をつぶやく。
「ちょっと待ってて。そっち行くから」
そう叫ぶと、ミカは顔を引っこめて窓際から消えた。
しばらくすると息を切らしたミカが校舎から出てきて、足を止めた。
「さくら。退学届、出したって本当?」
乱れた呼吸を整えながらミカが言う。
「……うん」
そっと答えて微笑むと、ミカは戸惑いをストレートに顔に出した。
「別にさくらが責任感じることないじゃない。誰もさくらを責めてなんかないよ。だから」
「もう決めたの」
「……」
風があたしの髪をなびかせて、一瞬、秋のにおいがした。
構内を歩く女の子たちの持ち物も、すっかり秋色に染まっている。
東京に帰ってきてから、もう2カ月が経ったんだ。
「正直、大学どころじゃないんだ。今の心境」
さらさらと流れ落ちる髪の毛を耳にかけながら、あたしはつぶやいた。
涙をためた瞳を、無言でふせるミカ。
彼女に背を向けて、あたしは大学を後にした。