全てを言葉だけでは表現しきれず、あたしはレオの薄い胸板にこぶしを叩きつける。
力任せにぶつけた慟哭。
ぐらりと足もとが揺らいで、ふたつの体が波打ち際に投げだされた。
海水がほおを伝って、しょっぱかった。
だけどそれが涙なのだということに、すぐ気づいた。
倒れる時あたしをかばったのか、下敷きになりながらもあたしの体を支えているレオの手。
だけど、あたしを離そうとしている、この手。
なぜ……これほどまでに、愛しくて仕方ないの。
「さくら、聞いて」
悟すような声だった。
「東京に帰ったからって、一生会えなくなるわけじゃない」
あたしはその声を聞くまいと、必死で首を振る。
聞いちゃダメなんだ。
聞いたら、現実になってしまう。
「このまま一生逃げていくわけにもいかないだろ?」
そんな、わかりきった台詞は。
「嫌」
「さくら」
「嫌だ」
いつの間にか、太陽は完全に隠れていた。
「嫌だよっ」
押し寄せる波は、徐々に高さを増していた。