さくら、俺 東京に戻るよ――。






波音がやんだような気がした。


海に落ちる太陽の音すら聴こえそうなほどの、完全な静寂だった。



「何を……言ってるの?」



弱々しく空気を震わす自分の声。


水面は空の橙を映して輝く。



「レオ……?」


「……」


「戻るって、どういうことかわかってるの?」



答えの返らない質問が宙を舞う。


それは、あたしの痛みへと変わる。



なのに、上手に現実感を伴わなくて。



そこにあるのは、まるで日焼けしすぎた肌のように、ひりひりとこげつく感覚だけ。



「答えてよ、レオ」



あたしは彼の背中にそろりと歩み寄った。


長く伸びた波が足もとではじけ、白く立った泡がすぐに消えた。



「ねえ」



濡れて肌に張りついたレオのTシャツを、あたしは両手でつかんだ。



「ねえ、レオ」


「……」


「東京に戻ったら……捕まるかもしれないんだよ?」


「……」


「もう……会えないかもしれないんだよ?」


「……」


「なのに……なのにどうして、帰るなんて言うのよ!!」



気がつくと、感情が渦になってあふれていた。