「あー、おなかすいちゃった」



あたしは波打ち際に座り、顔に張りついた髪をかきあげた。


海の塩分のせいで、髪の毛はまるで束のように固まり、指の侵入を拒んだ。



「ヤバイなぁ、髪、傷みそう」



潮のにおいのする髪を見つめながら、帰ったらすぐにトリートメントしなきゃなと思った。



「レオ、そろそろ行こっか」



そう言ってあたしは立ち上がる。



「今日の晩ゴハン、何にするー?」



そして、違和感に気づいた。



「……レオ?」



返事のないうしろ姿。


夕日を浴びて、くっきりと輪郭が浮かびあがり、海辺で立ち尽くしていた。



「どうしたの……?」




あたしの呼びかけに、レオはゆっくりと振り返る。



逆光で黒く染まった顔。


すぐには表情が見えなくて。



「……」



目が合って、息をのんだ。



レオの哀しい瞳。


こんな表情を、あたしは以前にも見たことがある。



「レオ……?」


「さくら、俺」



レオの後ろで燃えていた、真っ赤な太陽が……。



「俺、東京に戻るよ」



……そっと海に落ちた。