電話に出たエリコさんのおばさんは、優しい声をしていた。
宿までの行き方を説明してくれる軽快な声が、少しエリコさんに似ていたから安心した。
「バスで3つ目の停留所を降りて、すぐだって」
電話を切り、レオにそう言うと
「そっか。近いじゃん」
レオはあたしのボストンバッグを持ち上げて、ずんずん歩きだした。
「バス乗らないの?」
「歩けるよ」
「えー。暑くない? しんどいよ」
「さくら……オバサン臭い」
「はあ!? 失礼ね」
あたしだって歩けるわよ、とブツブツ言いながらレオの後をついていく。
すると5メートルほど進んだ所で、レオの背中にぶつかった。
「何、突っ立ってんの?」
「いや、忘れ物したと思って」
そう言って、レオは左手を差しだす。
「え?」
「手。つなぐの忘れてた」
南国の太陽をバックに、にっこり微笑むレオ。
……忘れ物って、あたしの右手かよ。